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知ってしまった熱。
気付いてしまった想い。

望んではいけないことくらい分かってる。









「・・・んっ」

口を閉じているせいで、抑えきれなかった吐息が鼻から漏れる。
突き上げられる度に上げそうになる嬌声を、なんとか堪えようとしても、
イイ所を的確に突いてくるそれに、体は正直に反応してしまう。

「・・・声、出せよ」

唸るような低い声で言ってくる男に、
サンジはゆるゆると首を横に振る。

快楽の波に身を委ね、なりふり構わず乱れてしまえば、
もっとずっと楽なのかもしれないが、
それはどうしてもサンジの男としてのプライドが許さない。
この期に及んで、プライドも何もないのかもしれないが・・・。

「・・・っ・・・ァ・・・」

前立腺を刺激され、限界まで張りつめたサンジ自身を不意に扱かれ、
ゾクゾクと吐精感がかけあがる。

「・・・っ」

ダメ押しの様に深く突き上げられ、
サンジ自身から白濁が飛び散る。

それと同時に、サンジを突き上げていた男が僅かに息をつめたかと思うと、
サンジの中で吐精したようで、腹の中にじわりと熱が広がっていく。
引き抜かれたそこからドロリと精液が零れ落ちた。



「先、風呂行ってくる」

そう言いながら、傍にくしゃくしゃに転がっていた毛布を放って寄越し、
部屋を出て行く緑髪の後ろ姿を、サンジはぼんやりと見送った。




いつからだろう。
ゾロとこんな風に体を重ねるようになったのは・・・。

自他共に認めるフェミニストの自分が、
まさか男に抱かれているなど冗談だろ!?
と、サンジ自身どこか他人事のように思う。


始めは、酔った勢いってやつだった。

いつもより少し長い航海だったのだ。
健康的な十代の男なのだから、溜まるものは溜まる。
今思うと、お互い大分切羽詰まっていたのだろう。
かといって、女性クルーであるナミやロビンに手を出すなど以ての外だ。
そこはさすがのゾロも弁えているようで、
そういった様子は見られなかった。

だから、それはちょっとした好奇心だったのかもしれない。
ゾロがどうやって性欲処理をしているのか。

深夜のラウンジで、酒を飲みながら話していた。
始めは他愛ないことを話していたのだが、
なんとはなしに、サンジがゾロに、陸で女を買っているかを聞いた。
ナミとロビンに手を出せないからには、
上陸した時に商売女に相手してもらうか、自分でするしかないのだ。
同年齢の男同士の軽い好奇心から始まった会話は、
いつの間にかひどく生々しい猥談のようなものになっていった。


「なぁ。お前、男の経験はあンのか?」

好みの体系、年齢、容姿や、好きなシチュエーション。
初体験の歳だとか、好きな体位だとか、半ば暴露大会と化した会話の末に、
そう発したのは、サンジの方だった。

「ヤってみる?」

ゾロももちろん溜まっていたのだろうが、
サンジの方もいいかげん溜まっていたのだ。
お互いに、好奇心と、情欲、不安や背徳心がないまぜになった複雑な心境で、
人気のない倉庫になだれ込んだ。

タチネコの関係は、なんとなく成り行きだった。


ゾロとのはじめてのセックスは、情緒の欠片もない、
お互い、ただただ射精するためだけのものだった。
ゾロは男は初めてだから、加減がわからねぇと言ったが、
それなりに知識はあったようで、
本来なら排泄器官でしかなく、硬く閉じたサンジのそこを、
ゾロはゆっくり解していった。
サンジはその様がなんだか無性におかしくて、
この一見武骨な男は、根はひどく繊細な奴なんじゃないかと思い、
そのらしくなさに、思わず笑いが漏れそうになった。

サンジはバラティエ時代、数回男の相手をしたことがある。
とは言っても、しばらく使われていないそこは、
なかなかゾロのものをすんなり受け入れることができなかった。
グロテスクに怒張したゾロのそれを、サンジが受け入れるのには、
かなりの時間を要した。

それでもなんとか、ゾロが思い通りに動けるくらいにはなり、
異物を捻じ込まれる痛みが、ようやく快感に変わろうかという時に、
ゾロに限界が近付いてきた。
サンジの頬にかかるゾロの息が熱くなり、腰を打つスピードが上がる。
それと同時に、サンジのものを扱く手も早まり、追い立てられてく。

「おい、出すぞっ」

「・・・っ・・・ァ・・・・」

サンジが答える前に、ゾロはサンジのナカで果てた。
直後に、サンジもゾロの手の中で白濁を吐き出した。
ゾロが自身を引き抜くと、サンジの後腔からドロリとゾロが放った白濁が零れる、

「・・・バ・・・カ野郎。ナカで出すかよ・・・」

サンジが未だ整いきらない呼吸のままゾロを睨むが、
熱に浮かされ上気し潤んだ瞳では、いつもの迫力はない。

「後処理とか・・・しなきゃなんねーじゃんっ」

「あぁ、そうか・・・。悪ィ」

素直に謝ってきたゾロに、毒気を抜かれてしまったサンジは、
はぁーと大きなため息を吐いた。

「・・・まー、オレも先に言ってなかったし・・・」

「悪かった。次からはしねェ」

そう言うと、先にシャワー浴びてくるといって、
ゾロは倉庫を後にした。

1人取り残されたサンジは、最後のゾロの言葉を、
射精後の倦怠感に回りきらない頭で反芻した。

(アイツ”次から”って言いやがった・・・)

次からと言うからには、これが最初で最後ではないということだ。
次があるということだ・・・。


その夜を境に、ゾロとサンジはたまにこうして体をつなげるようになった。






「おい、空いたぞ」

「・・・ん」

ゾロの放ってよこした毛布にくるまってタバコを吸っていたサンジの元に、
石鹸の臭いをさせたゾロが戻ってくる。

タバコを灰皿に押し付け、立ち上がった瞬間、
ゾロの精液がコプリと溢れ、内股を伝い落ち、
そのなんともいえない感覚に小さく呻くと、それに気付いたゾロが、
サンジの太腿を伝うそれをチラリと横目で見て言う。

「・・・後処理、手伝うか?」

「っふざけんな。いらねーよ」

男に突っ込まれ、イかされ、あまつ後処理までされるなど、
そんなことは、それこそサンジのプライドが許さない。
そんな、変な気遣いなんて欲しくはない。

「・・・恋人同士じゃあるめーし」

サンジはわざと冷ややかにそう告げると、
ゾロの横をすり抜け、足早に浴室に向かった。


そんな風に気遣わなくていい。
優しい言葉なんか欲しくない。
甘ったるい愛撫なんかいらない。

好きな時に呼べばいい。
自分の情欲のみに従えばいい。
中だろうが、顔だろうが、
出したいだけ出せばいい。

そうじゃないと、勘違いしてしまう。
欲しくなってしまう。
望んでしまう。

抱かれる度に膨れ上がっていく、
胸の内に秘めたこの想いに歯止めが効かなくなる。

意外な程やさしいてのひらや、
太く逞しい腕や、浅黒く焼けた厚い胸板も。
知ってしまった。
サンジを穿つゾロ自身の熱さも、
息を詰めるように発せられる喘ぎ声も。
全てがサンジを焦がす。

身を委ねてしまえば、
もう、後戻りができなくなる。



「・・・っ」

後処理の為に自身の後腔に滑り込ませたはずの指は、
いつのまにか目的を見失いナカでうごめく。
さっきまでさんざん攻められていたイイトコロを、自身の指で刺激する。
注がれた精液が未だ残るソコは、いやらしい水音を響かせる。
反対の手で、中心で勃ち上がった自身を扱きあげれば、
血液が集まり、硬度を増していく。


「・・・んっ・・・あっ・・・ぁあ」

シャワーの水音の合間に、
さっきは我慢していたはずの喘ぎ声が響く。
自身を追い立てながら、思い浮かべるのはただ一人。

「・・・あっ・・・ぁっ・・・んぁあっ」

ゾロに突かれ、扱かれ、イかされたばかりの敏感な体は、
少しの刺激でも、普段の何倍にも感じ、
あっけなく自身の手の中で、ドロリと吐精した。

脳天を突き刺し、痺れるような快感にその場にずるりと座り込む。
頭の上からは絶え間なくシャワーが降り注ぐ。



どうしたって消せはしない。
呑み込んだはずの言葉。


「ゾロ・・・」

名を呼ぶ声は自分でも驚くほど甘く掠れている。



「     」



シャワーの水音の合間に僅かに響いた声は、
滴り落ちる水と共に、排水溝へと消えて行った。








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視界が、ぼんやりとぼやけて、
水の中で目を開いた様に、色彩は朧げで、
景色は瞬きをする度にゆらいでいる。

それでも、
すぐ傍に、ダイキライなあいつがいるのは分かった。

何か、聞こえるけど、
ブツリ、ブツリとチューニングの合っていないラジオのように、
途切れるばかり。
耳がうまく音を拾えない。

温度をなくした指先に、かすかに感じる体温が、
なぜだかひどくせつなくて、
目頭が熱くなる。

ただでさえ朧げだった視界が、
尚更ゆがんで、世界は色をなくしてゆく。



「       」



だから。
聞こえないんだ。
見えないんだ。

ダイキライなお前の声も、顔も。


冗談みたいな緑の髪も。
日に焼けた肌も。
節くれだった、剣ダコだらけの手も。
光を放つ、琥珀色の瞳も。

こんなことなら、もっとちゃんと見ておけばよかったかな。
後悔先に立たずとはよくいったもんだな。



せめて、触れる指先を、握り返してやろうと思うのに、
体も錘をつけられた様に重くて、
指の先すら動かない。

あー、もう瞬きするのも億劫だな。


水分を含んだスーツが重たく肌に張り付いてキモチワルイ。
ヌルリとした液体は、鉄臭くてイヤだ。



「       」



聞こえない。
見えない。


もう。




「  い てる 」



一陣の風。
潮の香り。
鮮明になる。
世界が、イロを取り戻す。




「 あいしてる 」




あー、それを伝えようとしてたのか。


それは束の間の。
まほろば。

落ちてくる目蓋。

落ちてくる。
最初で最後の


くちびる。




世界は再び暗転した。









それはまるで性質の悪い悪夢だ。
何度も繰り返す。
壊れたレコードの様に。

あの日の光景は決して忘れない。
フェードアウトする世界の中心で光る対の琥珀を。













春島のあたたかな空気に温められた、生温い海水に半身を浸けたまま、
サンジは重たい目蓋を開けた。
薄い雲の向こうから注がれる太陽の陽が心地よい。

肺に溜まった空気を、ゆっくりと吐き出すと、
喉にイヤなひっかかりを感じて思わず咽た。
じわりと、乾いた口内に鉄臭さが広がっていく。

波が打ち寄せる度に洗われる体は、
この呑気な気候と、澄んだ翡翠の海に不釣り合いな紅で染め上げられ、
波の満ち引きに合わせて、体から流れ出た紅が斑に溶けて行く。

どこが痛むかなんてもうわからない。
どこもかしこも血塗れだ。


時折、どこかから舞い散った桜の花弁が降り注ぐ。
翡翠の海にはらはらと舞い落ちる花弁を眺めながら、
やっぱり春はいいな~と呑気に考える。
サンジの生まれた島は雪深く、青いはずの空は、鉛色の雲で覆われてばかりだった。
人々は寒さに耐え、束の間の春が来るのを毎年心待ちにしていたものだ。


やわらかな風が頬を撫でる。

再び襲ってきた眠気に、このまま目蓋を閉じ、
この微睡みに身を委ねてしまえば、どんなにか楽だろうと思った。

今、自分の体を苛む痛みも、
全ての思いも、しがらみも、
何もかも、全部終わるんだ。



アイツへの想いも。






ザッ。


近くで砂を蹴るブーツの音が静寂を破る。



体を起こそうと腹筋に力を入れると、
腹部に受けた銃創に激痛が走り、傷口から血が溢れ出す。
痛みに遠のきそうになる意識をなんとか引き留め、半身を起こす。
片膝を立て、そこに上半身を凭れさせる。


視線を上げると、そこには色彩豊かな春島によく馴染む、
緑髪の剣士が立っていた。


「・・・何でこんなとこにイんだ?」

血で焼けた喉がヒリヒリと痛む。
あまりにも掠れた自分の声に、自嘲の笑みが漏れそうになる。


「・・・そりゃこっちのセリフだ。ンなとこで何野垂れ死んでンだ」

「大きなお世話だっ・・・」

そこまで喋ると、込みあがってくるモノにえずき、再び咽た。
数度咳き込むと、海に紅い固まりがゴポリと落ちる。


「・・・立てんのか」

「誰に口利いてんだ」

啖呵を切ったのはいいものの、上半身を起こしているのがやっとで、
とても立ち上がれる状態ではない。



しばしの静寂の後、


「・・・アホが」

ゾロは小さく舌打ちをすると、
そんなことは端からお見通しと言わんばかりに、
サンジの体を抱えようと近づいて来た。

「いらねぇよ」

差し伸べられた手を思い切り引くと、
バランスを崩したゾロが、波打ち際に倒れ込む。


「てめぇ、何しやがっ・・・」

言いかけたゾロの首を引き寄せ、唇を塞いだ。

一瞬驚いたゾロだったが、歯列を割って舌を絡めれば、
逆に追い立てるようにサンジの舌を絡め取って行く。

「・・・んっ」

呼吸も絶え絶えになる程に、貪るように互いの唇を重ね合う。
角度を変えて、何度も何度も口付ける。
サンジの口元を汚していた血は、ゾロにも移り、
口の端が紅く染まっていく。



「・・・ハっ」


ようやく離した唇から、
二人の唾液と血が混じり合い、薄紅の糸を引いた。

ゾロの親指が、それを拭うようにサンジの唇を撫でる。


「このまま、目を閉じたら・・・どんなにか楽だろうと思ったんだ」

サンジの唇から離れた手は、そのまま頬をなぞり、
血で汚れた白い頬を撫でる。

「そしたら、何もかも終わるんだ」

いつもは太陽の光を跳ね返す金糸も、
海水に濡れ、所々血で固まっている。
その固まりを解す様に、ゾロの無骨な手が、
サンジの細い髪の毛を梳く。

「無様な死に様晒すくらいなら、このまま海に溶けちまう方がいい」

咲いた後は、潔く散ればいい。
この桜のように。


それまで黙ってサンジの言葉を聞いていたゾロが、
ふいにサンジの体を引き寄せた。
自身に凭れかけさせるように、背中を抱く。
限界などとうに超えているサンジは、
成すがままにゾロの体に体重を預けた。

「・・・んっ」

サンジの耳に口付け、
耳の付け根のあたりから舐め上げると、
体が小さくフルリと震える。


「・・・なぁ」

血で焼け、枯れた喉から出る声は、
自分でも驚くほど弱々しい。

「オレはもう・・・何もなくしたくないんだ」



どれ程刻が経っても、色鮮やかに焼き付いて離れない情景。
対価に自身の命を差し出したお前。
命を握り、はるか頭上から見据える冷たい視線。
覚悟を決め、引き結ばれたくちびる。
それでも光を失わない琥珀色の瞳。



ブラックアウト。



そして。
視界を埋め尽くした、
紅。
赤。
アカ。


その全てが、
サンジの心をがんじがらめに固め、苦しめる。

死にたいと思ったことはない。
けれど、死ぬことは怖くない。
失うことの方が、はるかに苦しい。
自分の目の前で、命の灯が揺らぎ、消えて行く様は、
もう二度と見たくない。

もう決してなくさないと誓った。
なくさせないと誓った。

それなのに、お前の灯は、
オレの目の前で消えようとした。





「オレだって・・・」

ゾロは、サンジの耳から唇を離すと、白く筋張った首元に顔をうずめる。
出血の所為か、海に浸かっていたせいか、サンジの体は氷のように冷えている。
触れ合ったゾロから伝わる熱が、冷え切ったサンジの皮膚をジンジンと焼く。


「同じだ・・・」

抱きしめる腕に力が籠る。
サンジの体から溢れ出た血が、ゾロの服にじわりと染み込む。

「このままてめぇと沈めたら楽なのにと思う。でも・・・」

肩が僅かに震えている。

「・・・オレはもっとてめぇを見ていてエ」

肩にうずめていた顔を上げると、
サンジの海の様な瑠璃色の瞳と、
ゾロの金色の瞳がぶつかり合う。

「感じていてエ」

サンジが瞳を閉じると、目元にうっすらと浮かんでいた水滴が、
一筋頬を伝い落ちた。
ゾロがそれを掬い取るように口付ける。

「もっと強くなる」

もう一度、サンジの体を強く抱きしめる。

「絶対に、負けねエ」



「だから、独りでなくなるなんて言うな」










ゾロは意識を手放したサンジの体を抱き上げた。
海水に混じって、紅い血液がボタボタと落ち、白い砂浜を汚す。
サンジの心を絡め取るこの紅が、
幾度となく、ゾロの心をも締め上げていることを、
サンジは分かっているのだろうか。



ゾロはサンジを抱え、歩き出す。


この春島の生暖かい風も、
海水と血に浸かり、冷えた体には心地よい。
ふわりと鼻をかすめる花々のにおいと共に、
桜の花弁がひらひらと二人に降り注ぐ。








  
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2013/07/21・・・ssに1点up
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