剣士×コックの非公式同人サイトです。はじめてお越しいただいた方はfirstを御一読頂きますようよろしくお願い致します。
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せつな
視界が、ぼんやりとぼやけて、
水の中で目を開いた様に、色彩は朧げで、
景色は瞬きをする度にゆらいでいる。
それでも、
すぐ傍に、ダイキライなあいつがいるのは分かった。
何か、聞こえるけど、
ブツリ、ブツリとチューニングの合っていないラジオのように、
途切れるばかり。
耳がうまく音を拾えない。
温度をなくした指先に、かすかに感じる体温が、
なぜだかひどくせつなくて、
目頭が熱くなる。
ただでさえ朧げだった視界が、
尚更ゆがんで、世界は色をなくしてゆく。
「 」
だから。
聞こえないんだ。
見えないんだ。
ダイキライなお前の声も、顔も。
冗談みたいな緑の髪も。
日に焼けた肌も。
節くれだった、剣ダコだらけの手も。
光を放つ、琥珀色の瞳も。
こんなことなら、もっとちゃんと見ておけばよかったかな。
後悔先に立たずとはよくいったもんだな。
せめて、触れる指先を、握り返してやろうと思うのに、
体も錘をつけられた様に重くて、
指の先すら動かない。
あー、もう瞬きするのも億劫だな。
水分を含んだスーツが重たく肌に張り付いてキモチワルイ。
ヌルリとした液体は、鉄臭くてイヤだ。
「 」
聞こえない。
見えない。
もう。
「 い てる 」
一陣の風。
潮の香り。
鮮明になる。
世界が、イロを取り戻す。
「 あいしてる 」
あー、それを伝えようとしてたのか。
それは束の間の。
まほろば。
落ちてくる目蓋。
落ちてくる。
最初で最後の
くちびる。
世界は再び暗転した。
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