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delizioso
それはまるで性質の悪い悪夢だ。
何度も繰り返す。
壊れたレコードの様に。
あの日の光景は決して忘れない。
フェードアウトする世界の中心で光る対の琥珀を。
春島のあたたかな空気に温められた、生温い海水に半身を浸けたまま、
サンジは重たい目蓋を開けた。
薄い雲の向こうから注がれる太陽の陽が心地よい。
肺に溜まった空気を、ゆっくりと吐き出すと、
喉にイヤなひっかかりを感じて思わず咽た。
じわりと、乾いた口内に鉄臭さが広がっていく。
波が打ち寄せる度に洗われる体は、
この呑気な気候と、澄んだ翡翠の海に不釣り合いな紅で染め上げられ、
波の満ち引きに合わせて、体から流れ出た紅が斑に溶けて行く。
どこが痛むかなんてもうわからない。
どこもかしこも血塗れだ。
時折、どこかから舞い散った桜の花弁が降り注ぐ。
翡翠の海にはらはらと舞い落ちる花弁を眺めながら、
やっぱり春はいいな~と呑気に考える。
サンジの生まれた島は雪深く、青いはずの空は、鉛色の雲で覆われてばかりだった。
人々は寒さに耐え、束の間の春が来るのを毎年心待ちにしていたものだ。
やわらかな風が頬を撫でる。
再び襲ってきた眠気に、このまま目蓋を閉じ、
この微睡みに身を委ねてしまえば、どんなにか楽だろうと思った。
今、自分の体を苛む痛みも、
全ての思いも、しがらみも、
何もかも、全部終わるんだ。
アイツへの想いも。
ザッ。
近くで砂を蹴るブーツの音が静寂を破る。
体を起こそうと腹筋に力を入れると、
腹部に受けた銃創に激痛が走り、傷口から血が溢れ出す。
痛みに遠のきそうになる意識をなんとか引き留め、半身を起こす。
片膝を立て、そこに上半身を凭れさせる。
視線を上げると、そこには色彩豊かな春島によく馴染む、
緑髪の剣士が立っていた。
「・・・何でこんなとこにイんだ?」
血で焼けた喉がヒリヒリと痛む。
あまりにも掠れた自分の声に、自嘲の笑みが漏れそうになる。
「・・・そりゃこっちのセリフだ。ンなとこで何野垂れ死んでンだ」
「大きなお世話だっ・・・」
そこまで喋ると、込みあがってくるモノにえずき、再び咽た。
数度咳き込むと、海に紅い固まりがゴポリと落ちる。
「・・・立てんのか」
「誰に口利いてんだ」
啖呵を切ったのはいいものの、上半身を起こしているのがやっとで、
とても立ち上がれる状態ではない。
しばしの静寂の後、
「・・・アホが」
ゾロは小さく舌打ちをすると、
そんなことは端からお見通しと言わんばかりに、
サンジの体を抱えようと近づいて来た。
「いらねぇよ」
差し伸べられた手を思い切り引くと、
バランスを崩したゾロが、波打ち際に倒れ込む。
「てめぇ、何しやがっ・・・」
言いかけたゾロの首を引き寄せ、唇を塞いだ。
一瞬驚いたゾロだったが、歯列を割って舌を絡めれば、
逆に追い立てるようにサンジの舌を絡め取って行く。
「・・・んっ」
呼吸も絶え絶えになる程に、貪るように互いの唇を重ね合う。
角度を変えて、何度も何度も口付ける。
サンジの口元を汚していた血は、ゾロにも移り、
口の端が紅く染まっていく。
「・・・ハっ」
ようやく離した唇から、
二人の唾液と血が混じり合い、薄紅の糸を引いた。
ゾロの親指が、それを拭うようにサンジの唇を撫でる。
「このまま、目を閉じたら・・・どんなにか楽だろうと思ったんだ」
サンジの唇から離れた手は、そのまま頬をなぞり、
血で汚れた白い頬を撫でる。
「そしたら、何もかも終わるんだ」
いつもは太陽の光を跳ね返す金糸も、
海水に濡れ、所々血で固まっている。
その固まりを解す様に、ゾロの無骨な手が、
サンジの細い髪の毛を梳く。
「無様な死に様晒すくらいなら、このまま海に溶けちまう方がいい」
咲いた後は、潔く散ればいい。
この桜のように。
それまで黙ってサンジの言葉を聞いていたゾロが、
ふいにサンジの体を引き寄せた。
自身に凭れかけさせるように、背中を抱く。
限界などとうに超えているサンジは、
成すがままにゾロの体に体重を預けた。
「・・・んっ」
サンジの耳に口付け、
耳の付け根のあたりから舐め上げると、
体が小さくフルリと震える。
「・・・なぁ」
血で焼け、枯れた喉から出る声は、
自分でも驚くほど弱々しい。
「オレはもう・・・何もなくしたくないんだ」
どれ程刻が経っても、色鮮やかに焼き付いて離れない情景。
対価に自身の命を差し出したお前。
命を握り、はるか頭上から見据える冷たい視線。
覚悟を決め、引き結ばれたくちびる。
それでも光を失わない琥珀色の瞳。
ブラックアウト。
そして。
視界を埋め尽くした、
紅。
赤。
アカ。
その全てが、
サンジの心をがんじがらめに固め、苦しめる。
死にたいと思ったことはない。
けれど、死ぬことは怖くない。
失うことの方が、はるかに苦しい。
自分の目の前で、命の灯が揺らぎ、消えて行く様は、
もう二度と見たくない。
もう決してなくさないと誓った。
なくさせないと誓った。
それなのに、お前の灯は、
オレの目の前で消えようとした。
「オレだって・・・」
ゾロは、サンジの耳から唇を離すと、白く筋張った首元に顔をうずめる。
出血の所為か、海に浸かっていたせいか、サンジの体は氷のように冷えている。
触れ合ったゾロから伝わる熱が、冷え切ったサンジの皮膚をジンジンと焼く。
「同じだ・・・」
抱きしめる腕に力が籠る。
サンジの体から溢れ出た血が、ゾロの服にじわりと染み込む。
「このままてめぇと沈めたら楽なのにと思う。でも・・・」
肩が僅かに震えている。
「・・・オレはもっとてめぇを見ていてエ」
肩にうずめていた顔を上げると、
サンジの海の様な瑠璃色の瞳と、
ゾロの金色の瞳がぶつかり合う。
「感じていてエ」
サンジが瞳を閉じると、目元にうっすらと浮かんでいた水滴が、
一筋頬を伝い落ちた。
ゾロがそれを掬い取るように口付ける。
「もっと強くなる」
もう一度、サンジの体を強く抱きしめる。
「絶対に、負けねエ」
「だから、独りでなくなるなんて言うな」
ゾロは意識を手放したサンジの体を抱き上げた。
海水に混じって、紅い血液がボタボタと落ち、白い砂浜を汚す。
サンジの心を絡め取るこの紅が、
幾度となく、ゾロの心をも締め上げていることを、
サンジは分かっているのだろうか。
ゾロはサンジを抱え、歩き出す。
この春島の生暖かい風も、
海水と血に浸かり、冷えた体には心地よい。
ふわりと鼻をかすめる花々のにおいと共に、
桜の花弁がひらひらと二人に降り注ぐ。
何度も繰り返す。
壊れたレコードの様に。
あの日の光景は決して忘れない。
フェードアウトする世界の中心で光る対の琥珀を。
春島のあたたかな空気に温められた、生温い海水に半身を浸けたまま、
サンジは重たい目蓋を開けた。
薄い雲の向こうから注がれる太陽の陽が心地よい。
肺に溜まった空気を、ゆっくりと吐き出すと、
喉にイヤなひっかかりを感じて思わず咽た。
じわりと、乾いた口内に鉄臭さが広がっていく。
波が打ち寄せる度に洗われる体は、
この呑気な気候と、澄んだ翡翠の海に不釣り合いな紅で染め上げられ、
波の満ち引きに合わせて、体から流れ出た紅が斑に溶けて行く。
どこが痛むかなんてもうわからない。
どこもかしこも血塗れだ。
時折、どこかから舞い散った桜の花弁が降り注ぐ。
翡翠の海にはらはらと舞い落ちる花弁を眺めながら、
やっぱり春はいいな~と呑気に考える。
サンジの生まれた島は雪深く、青いはずの空は、鉛色の雲で覆われてばかりだった。
人々は寒さに耐え、束の間の春が来るのを毎年心待ちにしていたものだ。
やわらかな風が頬を撫でる。
再び襲ってきた眠気に、このまま目蓋を閉じ、
この微睡みに身を委ねてしまえば、どんなにか楽だろうと思った。
今、自分の体を苛む痛みも、
全ての思いも、しがらみも、
何もかも、全部終わるんだ。
アイツへの想いも。
ザッ。
近くで砂を蹴るブーツの音が静寂を破る。
体を起こそうと腹筋に力を入れると、
腹部に受けた銃創に激痛が走り、傷口から血が溢れ出す。
痛みに遠のきそうになる意識をなんとか引き留め、半身を起こす。
片膝を立て、そこに上半身を凭れさせる。
視線を上げると、そこには色彩豊かな春島によく馴染む、
緑髪の剣士が立っていた。
「・・・何でこんなとこにイんだ?」
血で焼けた喉がヒリヒリと痛む。
あまりにも掠れた自分の声に、自嘲の笑みが漏れそうになる。
「・・・そりゃこっちのセリフだ。ンなとこで何野垂れ死んでンだ」
「大きなお世話だっ・・・」
そこまで喋ると、込みあがってくるモノにえずき、再び咽た。
数度咳き込むと、海に紅い固まりがゴポリと落ちる。
「・・・立てんのか」
「誰に口利いてんだ」
啖呵を切ったのはいいものの、上半身を起こしているのがやっとで、
とても立ち上がれる状態ではない。
しばしの静寂の後、
「・・・アホが」
ゾロは小さく舌打ちをすると、
そんなことは端からお見通しと言わんばかりに、
サンジの体を抱えようと近づいて来た。
「いらねぇよ」
差し伸べられた手を思い切り引くと、
バランスを崩したゾロが、波打ち際に倒れ込む。
「てめぇ、何しやがっ・・・」
言いかけたゾロの首を引き寄せ、唇を塞いだ。
一瞬驚いたゾロだったが、歯列を割って舌を絡めれば、
逆に追い立てるようにサンジの舌を絡め取って行く。
「・・・んっ」
呼吸も絶え絶えになる程に、貪るように互いの唇を重ね合う。
角度を変えて、何度も何度も口付ける。
サンジの口元を汚していた血は、ゾロにも移り、
口の端が紅く染まっていく。
「・・・ハっ」
ようやく離した唇から、
二人の唾液と血が混じり合い、薄紅の糸を引いた。
ゾロの親指が、それを拭うようにサンジの唇を撫でる。
「このまま、目を閉じたら・・・どんなにか楽だろうと思ったんだ」
サンジの唇から離れた手は、そのまま頬をなぞり、
血で汚れた白い頬を撫でる。
「そしたら、何もかも終わるんだ」
いつもは太陽の光を跳ね返す金糸も、
海水に濡れ、所々血で固まっている。
その固まりを解す様に、ゾロの無骨な手が、
サンジの細い髪の毛を梳く。
「無様な死に様晒すくらいなら、このまま海に溶けちまう方がいい」
咲いた後は、潔く散ればいい。
この桜のように。
それまで黙ってサンジの言葉を聞いていたゾロが、
ふいにサンジの体を引き寄せた。
自身に凭れかけさせるように、背中を抱く。
限界などとうに超えているサンジは、
成すがままにゾロの体に体重を預けた。
「・・・んっ」
サンジの耳に口付け、
耳の付け根のあたりから舐め上げると、
体が小さくフルリと震える。
「・・・なぁ」
血で焼け、枯れた喉から出る声は、
自分でも驚くほど弱々しい。
「オレはもう・・・何もなくしたくないんだ」
どれ程刻が経っても、色鮮やかに焼き付いて離れない情景。
対価に自身の命を差し出したお前。
命を握り、はるか頭上から見据える冷たい視線。
覚悟を決め、引き結ばれたくちびる。
それでも光を失わない琥珀色の瞳。
ブラックアウト。
そして。
視界を埋め尽くした、
紅。
赤。
アカ。
その全てが、
サンジの心をがんじがらめに固め、苦しめる。
死にたいと思ったことはない。
けれど、死ぬことは怖くない。
失うことの方が、はるかに苦しい。
自分の目の前で、命の灯が揺らぎ、消えて行く様は、
もう二度と見たくない。
もう決してなくさないと誓った。
なくさせないと誓った。
それなのに、お前の灯は、
オレの目の前で消えようとした。
「オレだって・・・」
ゾロは、サンジの耳から唇を離すと、白く筋張った首元に顔をうずめる。
出血の所為か、海に浸かっていたせいか、サンジの体は氷のように冷えている。
触れ合ったゾロから伝わる熱が、冷え切ったサンジの皮膚をジンジンと焼く。
「同じだ・・・」
抱きしめる腕に力が籠る。
サンジの体から溢れ出た血が、ゾロの服にじわりと染み込む。
「このままてめぇと沈めたら楽なのにと思う。でも・・・」
肩が僅かに震えている。
「・・・オレはもっとてめぇを見ていてエ」
肩にうずめていた顔を上げると、
サンジの海の様な瑠璃色の瞳と、
ゾロの金色の瞳がぶつかり合う。
「感じていてエ」
サンジが瞳を閉じると、目元にうっすらと浮かんでいた水滴が、
一筋頬を伝い落ちた。
ゾロがそれを掬い取るように口付ける。
「もっと強くなる」
もう一度、サンジの体を強く抱きしめる。
「絶対に、負けねエ」
「だから、独りでなくなるなんて言うな」
ゾロは意識を手放したサンジの体を抱き上げた。
海水に混じって、紅い血液がボタボタと落ち、白い砂浜を汚す。
サンジの心を絡め取るこの紅が、
幾度となく、ゾロの心をも締め上げていることを、
サンジは分かっているのだろうか。
ゾロはサンジを抱え、歩き出す。
この春島の生暖かい風も、
海水と血に浸かり、冷えた体には心地よい。
ふわりと鼻をかすめる花々のにおいと共に、
桜の花弁がひらひらと二人に降り注ぐ。
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