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太陽の花。



「好きになったのが、サンジくんだったらよかった」


深夜、クルーが寝静まり静かなサニー号。
唯一明りの灯るラウンジで、
ナミはブランデーの入ったグラスをゆらゆらと弄びながら、
ポツリと独り言のように呟いた。

「・・・そしたら、もっと楽だったのにって思うのよ」

「じゃあ、付き合っちゃう?」


いつも通りのサンジの軽口も、この時間では少し色を変える。
虚飾めいた、どこか上滑るような響きとは違う。
ナミがYESと答えたら、本当にそうなってしまいそうな。

「・・・バカ言わないで」

ナミは甘ったるくなりそうな空気を打ち消すように、
わざと大袈裟につまらなそうに言った。

こういう時のサンジはダメだ。

普段のサンジは、女と見れば見境なくメロメロになって、
今時少女マンガでも言わないような、
よくも素面で吐けるなと思う程甘い言葉を並べ立てる。

サンジは客観的に見ればイイ男だと思う。
もちろん、喋らなければの話だが・・・。
ナミは四六時中サンジから前述の口説き文句を吐かれるのだけれど、
なぜかサンジのことを”男”として意識することがほとんどない。
なぜだろうと考え、それはサンジがナミをはじめとする女という生き物を、
神格化しているからだと思ったのだ。
もちろんサンジとて、女を抱いた事くらいあるだろうし、
女の汚い部分も知ってはいるのだろうが、
それを知った上で、神格化するのだ。
サンジの中で女とは、女であるというだけで美しく、尊いものなのだろう。
だからか、サンジの言葉には男なら当たり前にある性的な情欲があまり感じられないのだ。
故に、ナミもまたサンジを男として意識しないのだ。


ナミはたまに寝付けない時に、こうして深夜のラウンジで酒杯をかたむける。
よっぽど遅い時間でない限り、サンジがいるので、
お酒を飲みながらサンジと他愛無いおしゃべりをするのだが、
時折、サンジが妙な色気を纏っている時がある。
そういう時のサンジは、普段の軽薄さはなりを潜め、
普段は口から生まれたのかと疑いたくなる程に、おしゃべりで騒々しいのが、
本当に同じ男なのかと疑いたくなるくらい、凪いだ海のように静かな空気を纏う。
そんな時、ナミはサンジのことを”嗚呼、この人も男なのだ”と思い知らされるのだ。
骨ばって血管の浮く大きな手の甲だとか、
筋肉に覆われ引き締まった腕だとか、
パリっとした清潔なシャツに覆われた厚い胸板や、
声を発する度コクリと動く隆起した喉仏だとか。
普段は目が行かないような所にばかり目が行ったりする。
「この人は自分をどう抱くだろう・・・」
などと、決して普段は思いもしないことを考えてしまう時もある。


「オレはナミさんのこと好きだけど?」

サンジは言いながら、ラムに浸け込んだレーズンを混ぜたビターチョコを口に運ぶ。
赤い舌がちろりと覗いて、ナミの背が僅かにゾクリとする。

「でも、愛してるじゃないでしょ」

ナミが弄んでいたブランデーを一口含んでから、
自分に確認し、言い聞かせるように言うと、
サンジは否定とも肯定とも取れない曖昧な笑みを浮かべた。

「・・・オレも、隣にいるのがナミさんだったらいいのにって思うよ」

サンジが少し顔を傾げると、耳にかけていた金糸がさらりと頬に落ちる。
白い頬にかかる金のコントラストに目が釘付けになる。

「オレだったら、愛しのナミさんに、こんな風にさみしい思いさせないのに」

それまでの、どこか艶めいた空気を打ち破るように、
唐突に、普段の軽口に戻るサンジに、
ナミは縫い止められていた視線を手元のブランデーに戻す。

「・・・アイツは、太陽だから」

琥珀色の湖面に、ランタンの灯が映って丸い明りがゆらりと揺れる。

思い浮かべるのは、目眩い程に輝く太陽。
どんな時にも強く、時に強引に照らしつける。
あらゆるものを魅了するその光。

「どんなに必至で手を伸ばしても届かないし、
見つめようとしても、眩し過ぎて見つめられない」

焦がれても、焦がれても。
決して手に入らない。



「・・・あいつが太陽なら、ナミさんはひまわりだよ」

「ひまわり?」

「いつでも太陽の方を向いて、光を浴びてキラキラ輝く」

サンジの落ち着いたアルトが続く。

「雨に打たれて、風に晒されて、
それでも健気に太陽を信じて、まっすぐに太陽に向かって生きてる」

いつもの、甘ったるい口説き文句と変わらぬ言葉のはずなのに、
それはナミの心をふわりと包む。
雨の空に、虹がかかるように。

「オレはそんなひまわりが大好きだよ」

ナミは歪んだ視界を誤魔化すように、ブランデーを呷る。

「・・・バカ」

消え入りそうな声で呟いたのは、
精一杯の強がり。





ふいに、ガチャリと部屋のドアが開く。

「・・・酒、もらう」

それまでの空気を打ち砕くように、
ゴツゴツとしたブーツの音と共に、緑髪の剣士が入ってくる。

「もーお前なんなんだよ。オレとナミさんのらぶらぶタイムを邪魔しやがって」

いよいよ普段通りの、騒々しい口調へと戻るサンジ。
つい先刻までのやわらかな目元も、いつものチンピラのような悪さに戻っている。

「へぇへぇ」

サンジの言葉に、適当に返事をしながら酒棚へまっすぐ向かう。

「左の棚の真ん中の段だけだぞ。あと、ちゃんとグラスで飲めよな」

「いちいちうるせーな」

「うるせーとはなんだよマリモが。お前は反抗期の子供かっ」

ガヤガヤといつもの言い合いを始めた二人に、ナミはくすりと笑う。
ケンカをしているのに、その空気はあたたかい。

「アンタたちは、海と空ね」

「へ?」
「ハァ?」

ナミの言葉に、二人が言い合いを止め、頓狂な声をあげる。
そんな二人を尻目に、ナミはカタリとイスから立った。

「なんでもないわ。私、そろそろ寝るわね」

「あ、あぁ。おやすみ。あ、グラスそのままでいいよ」

「ありがとう。サンジくん」

呑み始める時には暗く落ち込んでいた心が、いつの間にか晴れている。
素直に、付き合ってくれたサンジに対する感謝の言葉と、
同時にナミの心に小さなイタズラ心がともる。
イスから立ち上がり、サンジに近付く。

「ゾロの甲斐性がなくなったら、私がいつでも相手してあげるからね」

「っっ!!!!」

言いながら、サンジの頬に手を添えると、さらりとした髪の毛にキスをした。

すぐに離れたナミのくちびるを目で追いながら、
サンジは真っ赤な顔で口をパクパクさせている。
その奥で、ゾロが唖然として口を半開きにしていたが、
すぐにどこか拗ねたような顔でふいっと視線を逸らせた。
普段は大人びて、あまり感情を表に出さないゾロのそんな子供じみた姿がおかしくて、
ナミは一人、笑い出しそうになるのを堪えながら、女部屋へと向かった。






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一応ゾロサン、ル←ナミ前提です。
ナミしかり、ロビンしかり。
サンジと女性キャラの絡み(ゾサ前提)がすごく好きです。
これだけで普通に終わる予定が、拗ねたゾロがかわいそうだったのでw
ナミ退出後のゾロサン(R。むしろヤってるだけw)を近々up予定です。








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